日本回想療法学会会長

最新の認知症予防・介護予防技術の教育

 回想療法は、2000年から普及されてきた最新の認知症予防・介護予防技術です。日本回想療法学会は、「ADL記憶の維持」と「1H話法の実践」を教育普及しています。

①10歳~15歳の記憶にADLの記憶が含まれている。

電気製品の操作がわからなくなったり、料理がうまくできなくなったりするのは認知症と言うより、老化によるボケです。お風呂で体を洗う方法を忘れたり、道に迷ったりするのを認知症と言います。ADL(日常生活行動)は、着替えなどの日常的な生活行動のことを言います。このADLはすべて10歳~15歳に教えられ、習得し「記憶」されたもので、いわゆる「しつけ」された行動です。だから、10歳~15歳の記憶が消えるとADLも消えてしまうのです。

②記憶を消さないようにする回想法

大切なADL記憶を消さないためには、大脳細胞の消滅を軽減する必要があります。そのために身体運動をして大脳細胞へ酸素や栄養を供給することは大切です。でも、大脳細胞そのものが供給された酸素を消化する運動(記憶刺激)をしないと、せっかく脳へ供給された酸素はそのままカラダへ戻ってしまいます。しっかり酸素を脳内消化するためには、楽しいおしゃべりで大笑いするのが一番。おしゃべりして、笑って、おいしい食事をいただく。こんな素敵な脳トレが認知症予防ならば、すべての人が楽しく実践できますね。

内閣総理大臣認証 特定非営利活動法人
日本回想療法学会  会長  小林幹児

「記憶とADL」の関係が明らかに

 前節で「ADL記憶」について説明しましたが、「記憶が消えるとADLも消える」という関係について説明しましょう。

■介護現場の経験知から発見された。

 「記憶とADL」の関係が心療回想法の基礎理論となっているが、これは介護福祉士の経験知が発端だった。介護福祉士は老人介護の現場を熟知している。こうした介護福祉士とのおしゃべりの中で「協力動作など手がかからない高齢者とはよくおしゃべりするけど、認知症が進んでおしゃべりができない高齢者には手がかかる」という会話が発想をインスパイアさせた。

 たとえば、要介護高齢者の入浴介助はやることが多く、おしゃべりしている時間がない。このように介護福祉士は入所している高齢者とほとんどおしゃべりすることができない。たとえ、おしゃべりしていても上司から「何あぶら売ってんだ!仕事しろ」などと言われると、どうしてもおしゃべりしなくなる。

 また、高齢者の調査などを施設で調査すると、70歳~90歳の20年間の年齢差があったとしても「高齢者」という一つの括りとして統計数値として扱われる。つまり、この20年間の違いに目を向けることは多くなかった。また、現場で働く介護福祉士の経験知とこの高齢者調査結果がほぼ一致していたため、高齢者研究は身体的なものにほぼ限定され、知的な側面や言葉の面は研究者に意識化されにくかった。

 それにしても、どうして統計的数値と介護福祉士の知見が一致していたのか?それは介護福祉士が入所高齢者とほとんどおしゃべりをしていなかったことが要因だと考えられる。施設介護では身体的介護行為が最優先されるので、そこにコミュニケーションとしてのおしゃべりは必要なかったし、施設側も入居者とのおしゃべりを禁止している所が多くあった。つまり、おしゃべりが記憶のチェックになっているとしても、おしゃべりしない環境であれば記憶というキーワードが意識の中に存在していなかった。

 介護福祉士が入居高齢者とおしゃべりしない、という介護状況は2000年までの「措置入所」という時代の基本介護であった。措置入所は介護施設に入所させる権限が行政にあり、入所者の負担金がゼロだった。故に施設管理に逆らった場合「退所」という決定的な処罰が科される。これを恐れる入所高齢者は、施設介護者に絶対的な服従を強いられていた。入居高齢者は唯一「はい」という返事しか許されず、介護者とのおしゃべりは不要であった。施設介護が税金でまかなわれるため、もっとも重要なことは法的・物理的「平等・公平」であり「個別介護」という発想はなじまなかった。それゆえ、男性は坊主頭、女性はオカッパ頭にされ「特養カット」という言葉まで生まれた。そのため当時の介護方針は「合理的介護」や「管理的介護」であった。 1980年に国際障害者年を期にして障害者の人権擁護が意識化されたものの認知症高齢者は障害者には含まれていなかった。

2000年になって介護保険が導入され、1割負担ではあるが高齢者の自己負担金が発生することで入居高齢者は少しずつ意見を口にするようになってきた。この時代のこうした閉塞感に風穴を開けたのが前述した介護福祉士の言葉であった。介護福祉士にさらに話を聞いてみると「要介護度が軽度だとおしゃべりできるが、重篤だとおしゃべりができない」というまったく常識的な言葉だった。この常識を5年間追求し続け「ADLと記憶」の関係が意識化され、それからさらに3年かけて「ADL記憶」の存在を検証した。

■ADL記憶の発見

 認知症は記憶と関係がある、と発見してから「どの年齢の記憶がキーになっているのか」ということが課題となった。特に介護状態と認知症との関連を整理するためには「介護とは何か?」を明確にしなければならない。極論すれば介護とは①食事、②排泄、③衛生の3つの行為を指す。現実にはそれ以外のケアも含むが、この3つができないことを「生活障害」と呼び要介護状態となる。だとすれば、これらのADLは動物の本能のようにもともと備わってきたものではなく、教育されて身に付けたものであり、それは記憶された行動だと言える。記憶された行動であれば、その記憶が消えれば行動も消える。

 問題は「いつ」その記憶が教育されたかだ。ADLは生活の基本動作であり、幼児のトイレットトレーニングから始まり、お箸の使い方、衣類の着脱などいわゆる「躾」とほぼ同じ。だとすれば、発達心理学から考えると躾がほぼ完了する12歳頃までには完成する。個人差を考えれば10歳~15歳でADLは完成する。この年齢幅の記憶がADLを規定していると仮説設定された。

 さっそく10歳~15歳の記憶をチェックする項目を作成して施設高齢者にインタビューしてみた。しかし調査結果は年齢差も性差も要介護度の差も出なかった。これには途方に暮れてしまった。記憶とADLには関連がないのか。と挫折しそうになったとき、ある施設で目の前を片脚のない高齢者が車椅子で通りかかった。「ん?」とひらめいた。「データには身体障害者が含まれている」。高齢者施設は、ただ高齢だというだけで入所している人ばかりではない。身体障害や精神障害で入所している人も多く、そして高齢だ。そこで、施設長の許可を受け、データから身体障害者と精神障害者を除外してデータを再集計した。するとずばり要介護度と記憶レベルに相関関係があらわれた。つまり、認知症状単独による介護度を抽出したのである。一般的な介護度は身体症状で判定されるため、認知症状が反映されにくい。認知症状を抽出するには関連変数をできるだけ排除して独立変数として集計する。こうして10歳~15歳の記憶が認知症に関連することが検証された。

 ここで注意しなければならないことはADL障害と認知症は、必ずしも同じものではないということだ。ADLが消えること、すなわちこれが認知症というわけではない。認知症にはいろいろなパターンがありADLが維持される認知症も存在している。「認知に障害があるから認知症だ」、「生活に障害があるから認知症だ」ということでもない。つまり、認知症を要因として介護が必要なほどの生活障害が認められる人を「認知症」と呼ぶ、と2018年に国会提出された認知症基本法案で規定している。2022年現在、まだ国会で議決されていないが、これが成立すれば認知症への誤解も少なくなることだろう。

■認知症の定義

 認知症とはADL(食事・排泄・衛生)に障害があること、とは言い切れない。ADLケアは精神障害や身体障害もADLケアを必要とする。介護福祉士からADLケアを受ける高齢に精神障害、身体障害、認知症などの違いは少ない。どの高齢者もお風呂介助やトイレ介助を必要とする。

介護福祉士から続けて話を聞くと精神障害、身体障害、認知症には記憶に関する質の違いを感じるという。そこで、施設長の許可を得て高齢者施設に入居している高齢者を身体障害、精神障害、認知症の3群に分けて調査することとした。この調査により「認知症群」に特徴が発見された。

  1. 記憶量が少ない。
  2. 記憶が消えているある年齢幅にADL障害が多く発現している。
  3. 記憶量が多いとADL障害が少ない。

 この調査結果をふまえて認知症を定義すると、

  • 加齢により脳細胞が減少する。
  • 脳細胞の減少により10歳~15歳の記憶が消滅するとADLが低下する。
  • ADLが低下することで生活障害が発生し介護状態となる。

 認知症は上記の定義となった。

■ADL記憶の定義

 ADLの維持に関連している記憶群を「ADL記憶」と命名した。要するに10歳~15歳の記憶のこと。「それはなぜ?」との質問をよく受ける。質問者の持つ基礎知識の量により答え方は大きく変わるが、発達心理学的に表現すれば「12歳で神経系が完成する」ことから、躾(ADL)も12歳ぐらいで完成すると考えられる。個人差を考え10歳~15歳とした。 現在の介護分野におけるADLはActivity Daily Life の略とされるが、Activityには順番を勘案したり、行動の組み立てをしたりする思考が含まれている。しかし、認知症が発症するとActivityは消滅する。しかし、衣服脱着などの躾的行動はできること多い。料理や掃除ができなくても排泄や衛生ができれば生活障害とはならない。生活障害を発生させない生活記憶の維持としてADLをとらえると、Action daily Life と理解した方がわかりやすい。

特定非営利活動法人 回想療法センター取手

 特定非営利活動法人回想療法センター取手は、日本回想療法学会の地域活動を実践推進しています。
 日本回想療法学会本部のある茨城県取手市では、認知症予防活動として市の委託事業や助成事業を行っており、地元高齢者の認知症予防と進行予防活動を実践しています。そうした活動の1つである「回想法スクール」は2022年で6周年を迎えました。それとともに講演会やセミナーなど延2000名の高齢者に心療回想法の基本である「ADL記憶」と「1H話法」の普及を行ってきました。

 取手市の高齢化率は33.4%と高く、さらに増加することが予測されています。年齢構成を見ると65歳~75歳の年齢が多いので、これから訪れる市内の認知症発症ピークに向けて認知症予防のための回想法スクールやセミナー活動をより普及させていきたいと思います。

特定非営利活動法人回想療法センター取手
理事 園田美恵子

日本回想療法学会概要

学会名称内閣総理大臣認証 特定非営利活動法人 日本回想療法学会
会長小林 幹児
所在地300-1514 茨城県取手市宮和田2832-2
TEL0297-83-0556
事業内容回想療法は、2000年から普及されてきた最新の認知症予防・介護予防技術です。
日本回想療法学会は、「ADL記憶の維持」と「1H話法の実践」を教育普及しています。

日本回想療法学会の入会について

 日本回想療法学会では、学会の活動に賛同して回想療法の研究活動に参加される方々を募集しています。入会条件はありません。当学会は回想療法を実践する方々を中心とした学会ではありますが、回想療法を学びたい方であればどなたでも入会できます。

研究発表の場として、通信教育の実践場として、大切な人へのケア技術として、また、将来の技術向上を目指して学びたいなど、ひとりひとりの希望が叶うよう研究と実践が深まって行くことを期待しています。

メールではなく紙面でのお申込みをご希望の方は、以下の入会申し込み書類を印刷・必要事項を記入していただき、日本回想療法学会までファックスか郵送にてお送りくださるようお願い申し上げます。

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